オプション取引には、「ボラティリティ」という概念がつきものです。特に、IV(推定変動率)という用語(Bybitのオプション取引ページを参照)を見かけることがあります。この記事では、原資産価格の今後のボラティリティに対する理解を深め、オプション取引にIVを活用できるように、IVに関して総合的に説明していきます。
IVはオプションの価格決定において非常に重要であり、オプション契約の価格を決める1つの方法と考えることができます。オプション取引では、IVの予測が損益に直接影響します。
基本概念:HVとIV
原資産のHV(ヒストリカル・ボラティリティ)により、一定期間における原資産のボラティリティを分析することができます。
一方、IV(推定変動率)では、原資産価格の変動の可能性を予測することができます。IVはオプション市場のトレーダーが原資産のボラティリティをどのように認識しているかを表しています。
なお、HV、IVともにトレーダーには年率で表示されます。
IVがオプション価格に与える影響
オプション価格はプレミアムと呼ばれ、イン・ザ・マネー(本源的価値)とアウト・オブ・ザ・マネー(時間的価値)の合計で構成されています。イン・ザ・マネー(ITM)の部分は、オプションの行使価額に相当し、原資産価格とオプションの行使価格にのみ関係し、オプションのギリシャ指標の影響は受けません。
よって、IVがオプション価格に及ぼす影響は、オプションのアウト・オブ・ザ・マネー(OTM)のポジションに対するものです。
IVがオプション価格に与える影響は、ベガで測定することができます。ベガは原資産のIVが1%変化するごとに、オプション価格がどの程度変化するかを表しています。
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他の要因がすべて同じであれば、オプションのIVが高いほど、原資産に今後、ボラティリティが発生する可能性が高くなり、オプション価格も高くなります。
例
トレーダーAが以下のBTCコールオプションを保有しているとします。
- 現在のBTC価格:20,000 USDT
- 行使価格:25,000 USDT
原資産価格の変動が大きいほど、原資産価格が25,000 USDTを超える確率が高くなるため、望ましいといえます。
原資産価格が上昇しても市場価格の変動が小さければ、オプションが失効したときに、BTCの価格が25,000 USDTを超えない可能性があります。この場合、トレーダーAが保有するコールオプションは利益を生まず、プレミアムは失われることになります。
オプションの購入者にとっては、原資産価格ができるだけ変動することが望ましいのです。一方、オプションの販売者にとっては、原資産価格ができるだけ変動しないことが望ましくなります。
したがって、原資産価格の変動が大きいほど、オプションのIVは高くなります。この場合、市場は一般的に、オプションが利益を生む確率が高く、オプション価格も高くなると予測します。
IVと満期
IVがオプション価格に与える影響は、オプションの満期によって異なります。
オプションの満期が遠いほど、IVのオプション価格への影響は大きくなります。
一方、オプションの満期が近いほど、原資産がボラティリティの影響を受けにくくなるため、原資産の値動きの不確実性が低くなります。よって、オプションは不確実性を少なくして価格決定されます。
IVと行使価格
一般的に、行使価格が原資産価格と等しい場合に、IVが最も低くなります。行使価格と原資産価格の差が大きいほど、IVは高くなり、「ボラティリティ・スマイル」と呼ばれる弧状の曲線が形成されます。
ボラティリティ・スマイルが形成される理由は、大きく分けて2つあります。
1. 行使価格の違いにより、対応する原資産のボラティリティも異なります。オプションの購入者にとっては、オプションの行使価格が現在の市場価格から乖離すればするほど、原資産価格が行使価格に達する確率が高くなります。
2. ヘッジの観点からは、原資産価格の急騰により、OTMのオプションがITMになる可能性があります。この場合、オプションの販売者はリスクヘッジをすることが難しくなります。このリスクを補うために、OTMオプションの価格が高くなるほど、そのオプションのIVは高くなります。
またこれは、オプションの満期が近い場合、満期から遠いオプションよりもボラティリティ・スマイルが顕著になるということです。満期から非常に遠いオプションは、ボラティリティ・スマイルがより平坦になる傾向があります。
ボラティリティ・スマイルの別の解釈方法として、ブラック・ショールズ・モデルがあります。このモデルはオプションの価格決定で用いられており、原資産価格のボラティリティが正規分布に従うと仮定しています。しかし、実際は理想的な状況になることは少なく、原資産価格が行使価格に達する確率は、このモデルで計算した理論値よりも高くなる場合が多いため、IVも高くなります。
ただし、オプションのIVは、オプション価格と同様に、オプション市場で購入者と販売者の間の取引に利用されます。原資産価格やボラティリティに対する市場の期待、オプションの取引高やポジションは、すべてIVに影響を与えます。
よって、ボラティリティカーブが標準的な弧を描いていないケースや、IVの最安値がATM(アット・ザ・マネー)から乖離しているケースも見られます。
IVレベルの評価
IVが原資産の価格変動の可能性を予測する値であれば、過大評価と過小評価が発生します。一般的に、IV>HVのとき、IVは高く、IV<HVのとき、IVは低くなります。
具体的な分析の流れは以下の通りです。
一般的に、ヒストリカル・ボラティリティの算出には、20日または60日といった過去の一定期間の価格を適用します。
すると、市場価格が急に大きく変動した場合、HVは現在の実際のボラティリティを、過去のデータの平均を基に過小評価し、IVよりも大幅に低くなります。
この場合、日中またはさらに頻繁な(あるいは短い期間の)データを使って、最新のヒストリカル・ボラティリティを測定することができますが、これは今後の市場のボラティリティを過大評価することにつながる可能性があります。しかし、これにより、ショートオプションのデルタヘッジコストを、より正確に表すことができます。
したがって、あるオプションのATM IVが、長期のヒストリカル・ボラティリティと短期のヒストリカル・ボラティリティよりも高いことが確認された場合、そのオプションのIVは、過大評価されている可能性があるということです。この場合、ショートストラドルなどのショートベガのためのオプション戦略の適用を検討するのもよいでしょう。
これに対して、あるオプションのIVが長期のヒストリカル・ボラティリティよりもはるかに低く、かつ短期のヒストリカル・ボラティリティよりも低い場合、そのオプションのIVが過小評価されている可能性があります。その場合、ロングストラドルなどのロングベガのための戦略の適用を検討するのもよいでしょう。
ここでは、参考までにオプション取引の戦略をご紹介します。
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IVを活用したオプション取引の方法
オプションの注文画面で「IVモード」を選択するだけで、IVに応じて直接、発注することができます。詳しくは、Bybitでのオプション取引の始め方を参照してください。
IVに基づく注文、つまりお客様の注文価格は、原資産価格やオプションの満期によって異なりますので、ご注意ください。
まとめ
IVはトレーダーがオプション価格が妥当かどうかを判断するための、重要な指標です。原資産の今後の価格変動が、予測されるIVよりもはるかに低いと考えられる場合は、IVをショートすることを検討し、逆の場合はロングすることを検討するとよいでしょう。
IVを基に取引をする場合、本稿で紹介したような一般的なボラティリティ取引戦略の適用を検討するとよいでしょう。もしくは、IVを取引に利用しながら、デルタをダイナミックにヘッジし、常に「デルタニュートラル」のポジションを維持するのもよいでしょう。そのためには、デルタ値の変化を常に監視するだけでなく、この用途に対応した取引ソフトウェアを用意する必要があります。